大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和49年(ワ)5415号 判決 1977年11月14日

原告

中村充

右訴訟代理人

磯崎良誉

外二名

被告

東映株式会社

右訴訟代理人

村下武司

外二名

主文

原告の請求は棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、「仮面ライダーV3」と題する映画(以下「本件映画」という。)の著作物の著作権に基づき、原告が別紙物件目録(一)ないし(五)記載の各物件(以下、「本件(一)ないし(五)物件」といい、これらを一括する場合は「本件各物件」という。)を製造販売することを差止める権利を有しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

被告は、原告に対して、本件映画の著作物の著作権に基づき本件各物件を製造販売することを差止める権利を有すると主張する。

しかしながら、被告には右のような権利はないので、右請求権不存在の確認を求める。

二  請求の原因に対する認否

被告が、原告に対して、右差止請求権を有するか否かにつき、原被告間に争いがあることは、認める。

三  被告の主張

1  被告の著作権

被告は、映画の製作、配給等を目的とする株式会社であるが、本件映画を製作して、その著作権を取得した。

本件映画は、正義の改造人間「仮面ライダーV3」が、同じく改造人間である「ライダーマン」と力をあわせて、改造人間による世界征服をたくらむ悪の秘密組織「テストロン」を壊滅するという物語を骨子とする、五二話からなる連続テレビ映画であり、昭和四八年二月から翌四九年二月までの間、毎日放送をキーステーシヨンとして、NETテレビ、九州朝日放送その他約三〇のテレビ局を通じて、全国的に、毎週土曜日午後七時三〇分から午後八時までの三〇分番組として連続放映され、その視聴率は平均二〇パーセント台、最も高い時には三一パーセントを超えるほど、児童幼児の人気を博した。

2  登場人物「ライダーマン」

改造人間「ライダーマン」は、本件映画の第四三話(昭和四八年一二月八日放映)から第五一話(昭和四九年二月二日放映)まで、「仮面ライダーV3」に次ぐ主役として毎回登場し、その特異な姿態、容貌と超能力を利用した活躍とにより、子供達の人気者となつた。すなわち、「ライダーマン」は、普段は通常の人間の姿をしているが、必要に応じて、昆虫にヒントを得て創作された特異なマスクをつけることにより変身し、右腕の義手に仕組まれたロープ、投網、鉄の爪等を自在にあやつり活躍するキヤラクターである。

ところで、「ライダーマン」の変身時における外面的特徴、とくに頭部顔面の外貌は、全登場期間を通じて一定しており、具体的には別紙写真目録表示のとおりである。

3  原告の本件行為

原告は、玩具の製造、販売業を営むものであるが、昭和四九年一月ころ、本件各物件を製造して、玩具業者に販売した。

原告は、今後も本件各物件の製造販売行為を継続するおそれがある。

4  「ライダーマン」と本件各物件との対比

原告は、本件映画に登場する「ライダーマン」を参考にし、それに準拠して、本件各物件を製作したものである。しかも、本件各物件を変身時の「ライダーマン」と比較すれば、多少の相異点はあるものの、いずれも「ライダーマン」の頭部顔面の本質的特徴をすべて具備し、一般人をして「ライダーマン」と認識させるに十分な容貌を有する。

5  右製造販売行為の権利侵害性

本件映画の主題は、ある種の超能力をもつた改造人間「仮面ライダーV3」及び「ライダーマン」が悪と対決し、大活躍をするところにあり、次々に展開されるエビソードは、いずれもこれら登場人物の役割、容貌、姿態等その個性を浮き彫りにするための背景にすぎない。そして、登場人物「ライダーマン」につき、その役割、容貌、姿態等恒久的なものとして与えられた表現は、本件映画の個々の話の筋や特定の一場面における具体的な表情、動作を超えたものであり、このような性質を備えた「ライダーマン」のキヤラクターを商品化する権限は、本件映画の一利用形態として、著作権者たる被告の専有するところである。

原告がする本件各物件の製造行為は、前記のような「ライダーマン」のキヤラクターを利用する行為であつて著作権者たる被告の右権限を侵害し、結局本件映画の著作物の著作権を侵害するものである。そして、その販売行為は、みずから著作権者の許諾を得ないで製造した本件各物件を販売するものであるから、当然に、著作権侵害行為によつて作成された物を情を知つて頒布する行為に該当し、著作権法第一一三条第一項第二号の規定により、被告の著作権を侵害するものとみなされる。

6  よつて、被告は、原告に対して、本件映画の著作物の著作権に基づき、本件各物件の製造販売行為を差止める権利を有するものということができる。

四被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実中、被告が映画の製作、配給等を目的とする株式会社であり、本件映画を製作してその著作権を取得したこと、本件映画が、昭和四八年二月から翌四九年二月までの間、NETテレビで、毎週土曜日午後七時三〇分から午後八時までの三〇分番組として連続放映されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の事実中、「ライダーマン」が、昭和四八年一二月八日放映分から、本件映画に登場したこと、「ライダーマン」の変身時における外面的特徴、とくに頭部顔面の外貌が別紙写真目録表示のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実は、原告が今後も本件各物件の製造販売行為を継続するおそれがあるとの点を除き、これを認める。

4  同4の事実は否認する。

ことに、原告が本件各物件を製作するに至つた経緯は、次のとおりである。すなわち、昭和四八年一二月初旬、東京都葛飾区青戸町に居住する玩具等の原型製作業者青木某が、玩具である本件(一)物件の原型(ただし、粘土で製作したもの)を持参し、原型の注文を取りに来た。青木某の説明では、そのころ漫画雑誌で子供たちに人気のある人物の顔を参考として考案したとのことであつた。そこで、原告は、同人に対して、右原型のほか、それに若干の修正を施した本件(二)ないし(五)物件の各原型の製作をも注文し、その後同人から引渡を受けた右五種類の原型に基づいて、塩化ビニール製の本件各物件を製造したのである。要するに、原告は、本件映画に登場する「ライダーマン」を参考にし、それを改作、改ざん、模倣して、本件各物件を製作したものではない。

また、これを客観的に比較してみても、子供用のお面である本件各物件の表情は、本件映画に登場する「ライダーマン」の表情と同一でもなければ、酷似もしていない。

5  同5の主張は争う。

仮に本件各物件が本件映画に登場する「ライダーマン」に準拠して製作されたものであり、かつ、その表情も「ライダーマン」のそれに同一又は酷似しているとみることができるとしても、次の理由により、本件各物件の製造販売行為をもつて、本件映画の著作物の著作権を侵害するものということはできない。

第一に、映画の著作物は、それを連続して映写することにより、一個の思想を表現することを内容としており、文書と同様に記述的作品としての意義を有する。したがつて、ある物件を映画の著作物の複製であるというためには、その物件が一個の思想を表現する記述的内容のものであり、かつ、その記述的内容が当該映画の著作物の表現する思想そのものであるか、その改作、改ざん、模倣であることを要するものと解すべきである。本件についてこれをみれば、本件映画は、「ライダーマン」という超能力の保有者が登場して大活躍をし、少年少女等視聴者にいたく満足感を覚えしめる筋書のものである。これに反して、本件各物件は塩化ビニール製の一個の物体にすぎず、何らかの思想を表現する記述的内容を有するものではない。

第二に、漫画映画のキヤラクターを商品化する権限が、被告主張のように、一般に映画の著作物の一利用形態として著作権者に専属するものであるとしても、本件映画における「ライダーマン」は、ここにいうキヤラクターには該当しない。すなわち、本件映画には、すでに「仮面ライダーX」「仮面ライダー一号」「仮面ライダー二号」「仮面ライダーV3」等が登場しており、「ライダーマン」は、昭和四八年一二月八日に至つてはじめて登場した。しかも、右「仮面ライダーX」等は、いずれも昆虫を想起させるヘルメツト型仮面、着色あざやかな上衣及びボクシング・チヤンピオンのそれに似た幅広のベルトを着用しており、その技能も、若干の差異はあるが、超人的なパンチ力、キツク力、ジヤンプ力を有する点で、共通性がある。かくして、「ライダーマン」は、本件映画の終期近く短期間登場したにすぎず、右五人の登場人物のうちで、とくに抜きん出た存在であつたわけではない。その外貌、形態も、とくに独特の個性を具えたものとは認められない。

いずれにしても、本件各物件の製造販売行為は、被告の本件映画の著作物の著作権を侵害するものではない。

第三証拠関係<省略>

理由

一被告が、原告に対し、本件差止請求権を有すると主張し、原告がこれを争つていることは、本件訴訟上明らかである。

二被告が映画の製作、配給等を目的とする株式会社であり、本件映画を製作して、その著作権を取得したことは、当事者間に争いがない。

そして、本件映画が、被告主張のような内容を有する連続テレビ映画であつて、昭和四八年二月から翌四九年二月までの間、毎日放送をキーステーシヨンに、約三〇のテレビ局を通じて、毎週土曜日、夜の三〇分番組として、全国的に放映されたこと(本件映画が、上記期間中NETテレビから毎週土曜日三〇分番組として連続放映されたことは、当事者間に争いがない。)、その視聴率は平均二〇パーセント台、最も高い時には、東京で三一パーセント、大阪で三六パーセントにまで達し、大いに児童、幼児の人気を博したことは、<証拠略>により認めることができ、これに反する証拠はない。

三<証拠>によれば、改造人間である「ライダーマン」は、本件映画の第四三話(昭和四八年一二月八日放映)から第五一話(昭和四九年二月二日放映)まで毎回登場したこと(「ライダーマン」が昭和四八年一二月八日放映分から本件映画に登場したことは、原告も認めて争わない。)、「ライダーマン」は、普段は通常の人間の姿をしている(これに扮する俳優が特別の仮面をつけることなく、素顔のまま画面に現われる。)が、必要に応じて、昆虫にヒントを得て創作された特異なマスクをつけることにより変身し、右腕の義手に仕組まれたロープ、投網、鉄の爪等を自由自在にあやつつて縦横無尽に活躍し、「仮面ライダーV3」に次ぐ主役であつたこと、「ライダーマン」が特異のマスクをつけ、変身した際における頭部顔面の外貌は、別紙写真目録表示のとおりであつて(この点は、当事者間に争いがない。)、俳優の口及びその周辺部はマスクによつて覆われず、露出しているため、各場面、各情況によつて、その部分の表情に多少の変化は見られるものの、その余の大部分は、全登場期間を通じて一定の構成を有するマスクに覆われているため、基本的には終始変らざる特徴を備えていることを認めることができ、これに反する証拠はない。

四原告が玩具の製造、販売業者であり、昭和四九年一月ころ本件各物件を製造して、玩具業者に販売したことは、当事者間に争いがなく、これに本件口頭弁論の全趣旨をあわせ考えれば、原告は、今後も本件各物件の製造販売行為を継続するおそれがあると解するのが相当である。

五そこで、<証拠>を参酌しつつ、本件各物件と別紙写真目録表示の「ライダーマン」の変身時における外貌とを対比すれば、両者は、口及びその周辺部を残すのみで、頭部及び顔面のその余の部分を全体的に覆う特異な構成のヘルメツトを被つていること、そのヘルメツトは、大きく前面に膨出した隋円半球状の赤い眼をもち、また、鼻梁から前頭部を経て頭頂部に向け、その中央部に大、中、小の三つのV字状輪郭を、小なる輪郭が大なる輪郭内に順次挾挿されるように描き出していること等において、基本的に同一の特徴を備え、両者間に存する些細な相違、すなわち、前記眼にダイヤカツト状の平垣面を有するか否か、触角の存否及び存在する場合のその長短など形状、各部における彩色の違い等にもかかわらず、全体的観察においては、ともに昆虫を連想せしめる一種独特の印象を与え、結局のところ、本件各物件は、一般視聴者とくに児童幼児をして、本件映画に登場する「ライダーマン」と認識させるに十分な容貌を有するものということができる。

この事実に、すでに確定した次の事実、すなわち、本件映画はテレビ放映当時高い視聴率をあげ、一般視聴者の人気を博したこと及び「ライダーマン」が第二の主役として本件映画に登場したのは昭和四八年一二月八日であるが、原告が本件各物件の製造販売行為を開始したのは、翌四九年一月ころであること並びに本件口頭弁論の全趣旨(とくに、原告の、本件各物件を製作するに至つた経緯として主張するところが具体性に乏しく、証拠方法の提出もないこと)をあわせ考えれば、原告は、本件映画に登場する「ライダーマン」を見たうえで、これを参考にし、これに準拠して、本件各物件を製作したものと推認するのを相当とし、この認定を覆えすに足る証拠はない。

六以上認定してきたところによつてみれば、原告が本件各物件を製造する行為は、本件映画に登場する「ライダーマン」の前記認定のような特徴すなわちキヤラクターを利用するものであり、このことはとりもなおさず被告が有する本件映画の著作物の著作権を侵害するものである。そして、原告が本件各物件を販売する行為は、原告が、本件映画の著作物の著作権者たる被告の許諾を得ないで製造した本件各物件をみずから販売するものであるから、当然に、著作権侵害行為によつて作成された物を情を知つて頒布する行為に該当し、著作権法第一一三条第一項第二号の規定により、被告の著作権を侵害するものとみなされる。

したがつて、被告は、本件映画の著作物の著作権に基づき、原告が本件各物件を製造、販売する行為を差止める権利を有するものということができる。

原告は、映画の著作物は、文書と同様、一個の思想を表現することを内容とする記述的作品であるから、その複製物も当然に記述的内容をもつものでなければならないところ、本件各物件はかかる内容をもたないから、本件映画の複製物たりえない旨主張する。しかしながら、本件映画が言語的著作物であると同時に絵画的著作物でもあり、本件各物件のように記述的内容をもたないものでもその複製物たりうるから、原告の右主張は採用し難い。

七<省略>

(秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)

物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例